ヴィア・フランチジェナ ローマ巡礼6日目 – ②

サンティアゴ巡礼記

La Storta → Rome

サンピエドロ大聖堂到着。

着いたよ。

何だこれ。今自分はどこにいるんだ。

 達成感からか、満足感からか、燃え尽きたのか、大聖堂への入場待ちをする人々の列をを眺めるともなく眺め、とめどなく湧き出す噴水を見てその水の音を聴ながら、イタリアの春の日差しで熱を持った石畳みの上に僕は座り込んでしまった。長いこと目を閉じてそこに座り込んでいた。

サン・ピエトロ大聖堂到着。ここは楽園なのか。

靴を脱ぎ、バックパックを放り出す。

 幾多もの聖人たちの像が、美しく立ち上げられた高い聖堂の上から無言で人間達を見下ろしている。風が強く吹いた。鳩達はそこいら中を飛んだり歩いたりしている。平和と言ったらいいのか、何と言ったらいいのか。

聖人達は何を思い、人々を見つめているのだろう。

「今世界屈指の美しき聖地にいる」そんな実感が次第に湧いてきた。

 ここまで導いてくれたものに感謝した。奇跡だ。世界に2つとない旅。鳩もありがとう。鳩が使いとなって僕を日本の田舎から、ここ聖地ローマの大聖堂まで導いてくれたような気もする。

 15時30分、一目見て彼だと分かった。この広い敷地の何百人という人がひしめき合う広場で、一歩でも1秒でも違っていたら再び出会うことはなかっただろう。僕は今回のローマ巡礼の唯一の巡礼仲間、ホセと再会した。

 カミーノには魔法が残っている。やはりそれを今回も体験することになったのだった。

 ベテラン巡礼は、聖地に辿り着けた喜びと、待ってくれていた家族に再会できた喜びとで幸せそうだった。そして「ヒロ〜!」と僕との再会も喜んでくれた。

 ホセの勧めに従って僕はサン・ピエトロ大聖堂の中へと入場する列に並んだ。どうやら大聖堂の中でスタンプを押してもらえて、巡礼証明書も発行してくれるらしい。

 彼と束の間喜びを分かち合うと、僕らは別れた。

見た目は終わりのなさそうな入場待ちの列だったが、そんなに時間はかからなかった。

 長い列は割とすんなり進み、手荷物検査を受けて中へ入る。大聖堂の正面入り口の脇には、また別の小さな入り口があってそこでアンゴラ人のお兄さんがスタンプを押してくれて、巡礼証明書も発行してくれた。

 彼と言葉を交わすうちに親しくなり、短い時間だったが、お互いのことを色々と話した。

 彼は親切にも、フィウミチーノ空港への行き方を詳しく教えてくれた上に、近くのホテルも教えてくれた。(そして今この文章を書いている自分は、そのお兄さんが勧めてくれたホテルの、6人部屋のドミトリーにベッドを取って、宿の下のバーでビールを飲んでいる。)

 ローマ到着を伝えたパスクワーレからはなかなか返事が来ない。まあ彼は仕事中だったし、自分が連絡するのが遅かったかも。と思いきや返信してくれた上に、明日休みを取ってくれたらしい。最高の友達だ。そして日本を発つ直前に突然「今からローマに行く!」なんてぶしつけな連絡をしてごめん。

大聖堂の中へ。広くて高くて、豪華絢爛だ。

 サン・ピエトロ大聖堂の中は芸術の極みだった。360度に広がる広大な空間の中にはたくさんの職人達が長い時間をかけて作りあげたのであろう、精緻で迫力ある豪華絢爛な絵画や彫像が飾られていた。

迫ってくるような迫力がある。

 ここは静かな祈りと瞑想のための教会、というより美術館であり、まるでアミューズメントパークのようだと感じた。実際そうなのだろう。歴代の法王が人々の信仰を集めるためのもののように見えた。やはりというか、法王の絵画や彫像が多い。それらの作品の中では、主であるはずのジーザスは磔にされまくっていて、まるで法王の方が偉そうに振る舞っていた。

聖書の知識も絵画の知識もないので、ただその雰囲気だけを感じる。

 趣旨は賛同できない部分が多かったが、とにかくイタリア、いや世界の芸術の中心にいると思って、とにかく見て感じて、自分の感性に取り入れようと思った。

この聖人が誰なのか全くわからないが、迫力がある。

 先ほどのアンゴラのお兄さんが18時から巡礼者用のミサがあると教えてくれたが、あと1時間以上待たないといけなかったし、パスクワーレにも会いたかったので、17時丁度に大聖堂を出て宿を探すことにした。

グッバイ、サン・ピエトロ大聖堂。またいつか戻ってくることがあるだろうか。

 あらかじめ調べていた巡礼宿もあったが、さっきアンゴラのお兄さんに教えてもらったテルミニ駅近くの宿を探すことにした。フィウミチーノ空港までのバスもそこから出ているらしかったので、明日のことを考えたらそちらの方が良さそうだ。それに巡礼宿もあるにはあったが、そちらを探すとなると、はあちこち歩き回らなければならなそうだった。

 善は急げと、大聖堂前の広場にある雑貨でチョコを買って、おじさんにテルミニ駅までの行き方を尋ねた。「メトロに乗れ」と言われた、「グラッツェ!」。

 メトロに行く前に、店の前で今買ったチョコを食べていると、施しをもらいにおばあちゃんがやってきた。手に持ったカップにお金を入れろ、と催促してくる。だが、たった今チョコで小銭を使い切ったばかりだったのでバックの中の食べ物をあげようとしたが、「金をくれ」と言ってくる。最後は押し問答の末にチーズをあげた。不服そうだった。

 サン・ピエトロ大聖堂に来る途中にメトロの駅があったのを思い出して、チョコを食べ終わると、その場所へ向けて歩き出した。サン・ピエトロ大聖堂へと向かう人並みに逆らうように進み、駅には割とすぐに着いた。メトロの治安とか、乗り方とか、ホテルは見つけられるかとか、色々不安はあったが、人の流れに身をまかせて地下鉄への階段を降りた。

 自動券売機もあったが、使い方も分からないし、チケットオフィスで買うことにした。窓口でお姉さんに「テルミニ!」と伝えるとすぐに発券してくれた。1€は安い。「プラットフォームはまっすぐ行って右だよ!」と言われて、何をどうまっすぐ行って右なのかわからないが「わかった!」と言って歩き出した。お姉さんは笑っていた。

お姉さんと自分を信じてメトロに乗り込む。

 お姉さんの言葉と、五感と、色々な情報を頼りに無事にメトロにも乗れて、テルミニ駅に到着。近くのバールでカップッチーノを頼んで席に着くと、Wi-Fiを借りて目星のホテルの場所を調べた。ホテルはどうやら駅の近くにあって、徒歩で行ける距離だった。

 大聖堂を出てからはだいぶ駆け足だったが、迷いながらも無事にホテルに到着。ベッドも確保でき、ホッと一安心した。

テルミニ駅到着。

 そこからは、パスクワーレと連絡を取り合ったり、宿の下のバーでビールを飲みながら今日と今回の巡礼の旅を振り返って書き物をしていた。

1人静かな祝杯を、ローマのバーの片隅で。

 夜は23時には寝た。夜中に帰ってきた同部屋の人はすごいイビキだった。正常に呼吸ができていない、何かが呼吸器に詰まっているような、締めつけられているような苦しそうな呼吸だった。だいぶ酔っていたと思う。

 その騒音は一晩中あったのかもしれないし、今しがた彼はイビキを立て始めたところなのかも知れなかったが、うるさくて目覚めたのは5時ぐらいだったから、ラッキーだった。6時間はしっかりと眠れたのだから。

 しばらくベッドでうつらうつらしていた。気づけば6時20分になっていた。少し起き出して日記の続きを書くことにした。

 今日は友に会える。実に5年ぶりだ。今回の旅の本来の目的は彼との再会だった。「何だか終わった気がしないな」と感じていたイタリアの聖地巡礼だった。だが、それもそうなのかもしれない。彼との再会が目的なのであれば、待ち合わせの数時間だけ、僕はまだ巡礼なのかもしれなかった。

「会ったら何を話そうか」

いつものように、7時なると荷物をまとめ始めた。

夢見ることをやめてはいけない。

ヴィア・フランチジェナ ローマ巡礼 完

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