【サンティアゴ巡礼】フランス人の道 – 28日目 –

サンティアゴ巡礼記

『中世から現実へ〜非日常から日常へ〜』
6月2日 Manjarin → Molinaseca 16.3km

 昨夜は思いの外ぐっすりと眠れた。中世の伝統的巡礼宿での一夜はむしろ快適だったと言って良いかもしれない。

 「カンカンカーン!」

 朝7時、アルベルゲの鐘が辺り一帯に鳴り響いた。廃村に建つアルベルゲR.P Los Templariosのオスピタレオであるトマスは、峠に濃霧が立ち込めると巡礼達を導くために鐘を鳴らすらしいのだが、この鐘はベッドで眠りの中にいる巡礼を叩き起こすためのものでもあるらしい。

 目を覚ますと僕はもう中世にはおらず、ファンキーなアルベルゲの納屋のような宿舎で寝袋に包まっていた。

 薄暗い宿舎から外へ出ると、朝から数人の巡礼がアルベルゲを見学していた。アルベルゲはカミーノに数多くあるけれど、早朝から巡礼が見学に訪れるアルベルゲなんてここぐらいではないだろうか。

 宿舎と母屋の間の”野ブタの通り道”を昨夜野ブタ達が通ったのかはわからない。少なくとも、野ブタが狼のようなアルベルゲの飼い犬達に食べられたような痕跡はなかった。

 朝食に呼ばれたので、支度を終えると母屋へと向かった。トマス達の住居の一部のようなダイニングルームにはテンプル騎士団にまつわる品々が所狭しと飾られており、部屋の真ん中にドン!と置かれた大きな円卓には宿泊人数分の朝食が用意されていた。

ぼちぼち集まり始めた巡礼達と円卓で朝食を食べる。

 僕の他にはまだ誰も来ていなかった。朝食は各自で食べて良いらしかったので、先に頂くことにした。

 しばらくすると、他の巡礼達も朝食を食べにやって来た。それに続いて白い長衣を着たトマスも現れる。胸に大きな赤い十字のマークが入った長衣は、昨夜行われたテンプル騎士団の儀式の時に彼が着ていたものだった。

 早朝から何かの儀式が行われたのかもしれないし、トマスは気が乗ったらそれを着るのかもしれない。真相はわからなかったが、トマスは朝食の席に着きアルゼンチン人のおじさんと熱心に話し始めた。

ダイニングの棚からも、トマスのテンプル騎士団とマリア様へ愛を感じる。

 朝食を食べ終えるとアルベルゲの周りを少し散歩した。マンハリンを発つ前に、ドイツ人のアニータが、昨夜の儀式の時にトマスが語った内容について教えてくれた。

「パリのノートルダム大聖堂には、何らかの悪いエネルギーが封じ込められていて、大聖堂が焼けたせいで、封じ込められていた悪のエネルギーが外へ放出されるかもしれない。」

とトマスは言ったらしい。なんだかにわかには信じられない話だった。

 その後、しばらくアルベルゲの写真を撮ってから出発するというアニータと別れて出発した。

マンハリンを出発。道端の花に元気付けられた。

 スペインの昼は真夏のように暑いが、朝は冬のように冷え込むので、毎日ダウンを着て出発していた。だが今朝はダウンを着なくて済むほどに暖かかった。

 歩きながらも、昨夜の儀式とテンプル騎士団のことで頭はいっぱいだった。

「一体あの儀式は何のためのものなのか?」
「テンプル騎士団は今も実在するのだろうか?」

だが考えても考えても、それらは霧のように掴み所がなく、次の村エル・アセボまでの距離は長く感じられた。

爽快な景色。マンハリンから徐々に下り始める。

 少しくたびれながらも、ようやくエル・アセボに到着。白く塗られた家々はとても可愛らしく、見ていると楽しい気持ちになった。

エル・アセボ到着。

 それに、村人達は自宅の庭先で野菜作りや庭造りを楽しんでいるようだった。それは、これまでの巡礼路ではあまり見られなかった光景で、乾燥した灼熱の大地から緑潤うガリシアの地へと突入して真っ先に感じた変化だった。

自然色の壁色に癒される。

 エル・アセボのバルで一休みすることにした。時間帯のせいか入ったバルには客がいない。賑やかなバルも好きだが、静かなバルは日記を書くにはとても適している。

 気づけば1時間半ほど日記を書いていた。何しろマンハリンでの時間が濃すぎて書き残さなければいけないことが多かった。アルベルゲも兼ねているらしいバルはとても忙しいのだろう、お店のお姉さんはどこか上の空で、ジュースをこぼしたりしていた。

個人的には小さな村を通り抜けている時間がとても好きだ。

 エル・アセボを出発すると、小さな村を通り抜け、自然溢れる巡礼道を歩いた。とても静かな時間で、夢の中を一人で歩いているような、何だか静かでふわふわする時間だった。

村からまた自然の中へと道は続く。
木々に囲まれた道を歩いていると無心になれる。

 14時半にモリナセカに到着。村の入口に流れる川と、そこに架かる橋が美しい村だった。時間も丁度良いし、村も雰囲気が良さそうだったので、村の中心から少し離れたアルベルゲR.P Santa Marinaに泊まることにした。

モリナセカ到着。村の入口に架かる橋。

 R.P Santa Marinaの入口に植えられた真っ赤な花はとても綺麗で、宿は清掃が行き届き設備も全て整っている。一昨日までの自分ならこのアルベルゲにとても満足したに違いない。いや、今だって満足はしている。

 だがマンハリンの一癖も二癖もあるアルベルゲに泊まったせいか、この綺麗で居心地の良いアルベルゲに対して何だか物足りなく感じてしまった。”価値観が変わるとはこういうことなのか”と気づかされた。

今夜の巡礼宿。綺麗で清潔で設備の整ったアルベルゲだった。

 ベッドに荷を置くと、ボガディージョとリンゴを食べ、シャワーと洗濯をした後、少し昼寝をした。

 夕方目を覚ますと村をブラブラと散歩した。立ち並ぶバルでは巡礼や地元の人達が食事をしながら寛いでいる。

 明日の食料を買おうと食料品店に立ち寄った時、初めて店でチーズをスライスしてもらった。(パックされたチーズより断然美味しい!)会計の時に店のお兄さんがナッツをおまけしてくれた。

 ナッツを受け取った後、
「どこから来たんだ?」
と聞かれたので、
「日本です。」
と答えると
「持っていけ。」
とさらにナッツをおまけしてくれた。彼は親日家なのだろうか、理由は不明だがその親切は嬉しかった。

モリナセカの中心地。とても居心地の良い村だった。

 買い出しを終えてアルベルゲへと戻る途中、道端で渋カッコいい地元のおじさんとすれ違う際に

「君は日本人か?Hola!は日本語で何て言うんだ?」

と突然聞かれた。

 日本に関心を持ってくれていることが嬉しかった。モリナセカでは村人の親切がとても印象的だった。マンハリンでの非日常的な濃い体験も素晴らしかったが、モリナセカでの日常の中にある心温まる出来事だってとても素晴らしいものだと思う。

猫達もすっかり寛いでいた。

本日のアルベルゲ

Santa Marina (Molinaseca)

 Tel : (+34) 987 453 077 / (+34) 615 302 390
 Email : alfredomolinaseca@hotmail.com
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 私営アルベルゲ
 営業期間 3月〜11月 12時〜23時 
 予約可

 ・宿代 
  二段ベッド 10€
  二人部屋(トイレ付き)40€
  三人部屋(トイレ付き)60€

  三人部屋にベッドを追加する 15€

 ・夕食 10€
  朝食  4€

 ・ベッド数 49


 ・冷蔵庫
 ・リビングルーム(兼キッチン)
 ・シャワー室 8
 ・お湯
 ・暖房設備
 ・洗濯場/物干し綱
 ・洗濯機(洗濯3€、乾燥3€)
 ・自動販売機(バルに有)
 ・コーヒーマシン(バルに有)
 ・コンセント
 ・薬箱
 ・インターネット(有料のパソコン)
 ・公衆電話
 ・コンセント
 ・テラス
 ・駐輪場

本日の支出

項目
寄付10
コーヒー1.5
宿代7
食材4.5
合計23
2,875円(1€=125円)

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