【サンティアゴ巡礼】フランス人の道 – 11日目 –

サンティアゴ巡礼記

『ベロラード〜バルのおばちゃんとコーヒー〜』
5月16日 Villamayor del Rio → Villafranca Montes de Oka 17.3km

 昨夜泊まったアルベルゲR.P San luis de francaでは、8€にしては豪華な夕食を楽しみ、広い中庭でゆったりと過ごすことができた。とても居心地の良いアルベルゲだった。

 高速道路のすぐ脇という、一見騒がしそうな立地だったが、道路を行き交う車の音も21頃にはぴたりと止み、おかげでぐっすりと眠ることができた。

 宿の中で他に巡礼を見かけなかったので、アルベルゲはまるまる貸切状態のようだった(実際には、翌朝巡礼を一人見かけたので貸切ではなかった)。

アルベルゲの中庭。とても心を落ち着かせてくれる空間だ。

 空っぽの二段ベッドがずらりと並ぶ部屋に一人きり、というのは、自由気ままである反面、やはり少し寂しかった。いつもとは違う静か過ぎる環境で、”果たして眠れるのだろうか…”と心配したが、いつも通り気づけばぐーすかと寝ていた。良いか悪いかは別として、僕はいつでもどこででも眠れてしまうたちなのだ。

 一人なので誰に気兼ねすることもなくゆっくりと支度をし、7時半にはアルベルゲを出発。太陽は珍しく雲に隠れてその姿を見せず、今朝はいつになく冷え込んでいた。

 アルベルゲを出発すると昨日に引き続き高速道路に沿って歩いた。僕のすぐ横を車は猛烈なスピードで次々と走り抜けて行く。時々とても怖い思いをしながら歩くことになった。

雲が覆っていても、スペインの空は変わらずに広くて高い。

 次の町ベロラードには1時間ほどで到着。まだ朝も早いせいか町にはあまり人気がなかった。昨夜ベロラードに泊まった巡礼達も、どうやら皆出発してしまった後のようだった。皆今日にでもオカの山を越えるつもりなのかもしれない。

こんな建物に住んでみたい。きっとすぐに愛着が湧くに違いない。

 僕は明日オカの山越えをするつもりで、今夜はその麓の村ビジャフランカ・モンテス・デ ・オカに宿を取ろうと考えていた。このまま順調に(寄り道せずに)歩けば昼過ぎにはビジャフランカ・モンテス・デ ・オカに到着することができそうだ。

 多少時間にゆとりもあったので、かつてユダヤ人達が市場を開いていたというコロナ地区やマヨール広場を見学した。しばらくぶらぶらした後、広場の一角にあるバルでコーヒーを飲むことにした。

ベロラードの町にはあちこちに壁画が描かれていた。その1つ1つにメッセージが込められているみたいだ。

 バルのカウンターには50代ぐらいのおばちゃんが一人立っていて、店は朝からコーヒーを飲みに来る地元の人達で賑わっていた。お世辞にも、決して清潔とは言えない身なりに加え、怪しいスペイン語を話す僕に対しても、おばちゃんは気持ちの良い笑顔で接客してくれた。

 コーヒーより先に彼女の接客で温かくなった僕は、最近”節約、節約”と念仏のように唱えていたのも忘れ、ガラスケースの中に陳列されていたナポリタナをコーヒーと一緒に注文した。

 寒さの和らいできた外のテラス席にコーヒーとナポリタナを運ぶと、がらんとした広場を眺めながら朝食を食べた。正直、ここのナポリタナとコーヒーは今まで食べた中で一番美味しかった。それが何かはわからないが、何かが絶対的に違っていた。

 このバルが近所にあったら毎日通ったかもしれない。とにかくそんな幸せな気持ちにさせてくれる朝食だった。

 幸せな気分で朝食を食べていると、どこからともなく白い大型犬がハアハア言いながら僕のそばにやって来て、尻尾をブンブン振って、匂いをクンクン嗅いできた。犬はとても愛らしい目をしていた。飼い主のおじいちゃんもすぐにやって来て、
「まったくしょうがない奴だ!」
と言って笑っていた。何だかベロラードには温かいものがある気がして、「昨夜はこの町に泊まっても良かったな」と少し後悔した。

 食後にテーブルの上でガイドブックをパラパラめくっていると、広場を挟んで向こう側にある食料品店のシャッターがガラガラと開くのが見えた。

 バルのおばちゃんが出してくれた最高に美味しいコーヒーとナポリタナ、何より素敵な笑顔に感謝してバルを出た。(2.5€は安すぎる!)バルを出ると、今日の食料を調達するため先ほど開店したばかりの食料品店へ立ち寄ることにした。

 小さすぎず大きすぎない食料品店は、家族経営のようで(真相はわからない)揃いの白衣を着たおばあちゃん、お父さん、孫娘という年齢構成の3人が、店内で何やら品物の在庫を確認している最中だった。

作風も様々な壁画たち。

 店内を物色していると、孫娘(おそらく)から話しかけられた。パンとチーズを探していることを伝えると、それらが置かれている棚まで案内してくれた。彼女の親切に心がほっこりした僕は、ますますベロラードの町のことが好きになってしまった。

 人の温かさもそうだが、ベロラードで印象的だったのは町のあちこちに描かれていた壁画だ。町の出口付近には数階建ての建物の壁いっぱいに巨大な壁画が描かれていた。この町は芸術性も兼ね備えている、ますます興味深い。

どういうメッセージが込められているのだろう。

 ようやく顔を見せた太陽の下を、ビジャフランカ・モンテス・デ ・オカを目指して再び歩き始めた。今日も今日で青々とした小麦畑に囲まれながら一人歩く。

 頭の中でベロラードのことが次第にフェードアウトしていくと、いつの間にか故郷や身の回りの人達のことを考えている自分がいることに気がついた。

 カミーノは11日目だが、歩いていると日本のことや身近な人達のことを考える時間が長いように思う。前へ前へと歩きながらも、これまでの人生を振り返るように、それを一歩引いて眺めるかのように、日本で僕が埋めていた場所のことを考えていた。

天気も回復してきた。風がとても心地よい。

 13時にビジャフランカ・モンテス・デ ・オカの村に到着。ここのアルベルゲは一風変わっていた。足を踏み入れるのをためらってしまうような、高級感漂うホテルの一角がアルベルゲになっていたのだ。ホテルのカウンターで受付をするときは自分の身なりが場違いに感じてしまい少し緊張した。

 さすがホテルが管理しているだけあって、設備は整っているし部屋やベッドは清潔そのもので、おまけに中庭とテラスまであった。

アルベルゲを出ると外には寛げるスペースもあった。

 シャワーと洗濯を済ませると、日記を書いたり、村を散歩したり、ふらっとバルに立ち寄ってみたりと、のんびり過ごした。温かい日差しが降り注ぐアルベルゲの中庭では、多くの巡礼達が芝生の上に気持ち良さそうに寝そべっていた。

 日が傾いてくると、村の教会の前のベンチでボガディージョを食べた。キッチンはすでに満席で、夕食を食べるのに最適な静かな場所を探して歩いた結果、辿り着いたのが教会の前のベンチだった。静かな場所で一人で静かに食事をしたいとき、教会の前のベンチはとてもおすすめだ。

 教会の入り口の僕が座ったベンチの真上には、大きな蜂の巣があり無数の蜂たちがブンブンと唸りながら、絶え間なく飛び回っていた。だが、ボガディージョに夢中になっていたせいか僕はあまり気にならなかった。

 アルベルゲへ戻ると、ダイニングルームでは若者達がパーティをしていて、寝室のドアを閉めなければうるさくて眠れないほどに盛り上がっていた。(翌朝ダイニングルームへ行ってみると、パーティをしたまま片付けはされておらず、そこら中散らかり放題だった。)

 明日は峠越えだというのに、天候不良が予想される。少し不安な気持ちで寝袋に潜り目込んだ。だが、目を閉じると、ベロラードのおばちゃんの笑顔とバルでの美味しい朝食がまぶたに浮かんで、とても幸せな気持ちで眠りについた。

本日のアルベルゲ

 Albergue San Anton Abad (情報は2023年2月時点のものです)

  +34 947 582 150
  
  営業期間 3月15日〜11月15日
  11時〜22時

 ・一泊5〜10€
  僕が実際に支払った金額は10€ですが、他のガイドブックなどではそれぞれ価格が異なっています。 

 ・ベッド 26〜32床
 ・シャワー 5室
 ・インターネット
 ・Wi-Fi
 ・自転車駐輪場
 

本日の支出 (1€=125円)

・食材 2.3€
・コーヒー、クロワッサン 2.5€
・パン、チーズ 2€
・宿代 10€
 合計 16.8€(2,100円)

最新のカミーノ情報について

日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会
https://camino-de-santiago.jp/

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