Viterbo → Vetralla
Vetrallaの中心部は今まで見てきた町の中でも一番美しかった。もう衝撃的だった。絵本の中の世界だ。町は色と花で溢れていた。

町を歩き回ってたらスペイン人巡礼と出会う。最初すぐ近くに彼が歩いているのに気づいて、彼の姿格好から「あ、巡礼だろうな」と思った。何となくやり過ごそうと彼と逆方向に歩き始めたが、彼も後から同じ方向にやってきて、地元のイタリア人おじいさんの絡みもあって、話をし始めた。彼はホセ。とても静かで僕よりだいぶ年上の男の人だった。
彼が今夜予約している宿はすぐそこにあり、オスピタレアとの待ち合わせの時間までどこかビールを飲める場所をホセは探しているらしかった。

彼は近くで作業をしていた地元のおじさんに尋ねると、そこから20メートルほど下ったところに見えるバーを教えてもらった。
彼はイタリア人とイタリア語で話しているように見えたが、実際には「イタリア語は理解できないんだ」と彼は言った。スペイン語とイタリア語は似ているからお互いに母国語を話していても理解し合えると聞いたことがある。彼は英語は上手だった。
その場の流れで、これはホセもうついていくしかないと思い、彼の同意を得て彼と一緒にバーでビールを飲むことにした。
開放的な広いバーの中のカウンターには、店員の女の子が一人いて、客はいなかった。ホセは大きな瓶ビールを頼んだ。僕は小さめのものにしておいた。「イタリアのナンバー1ビールをくれ!」と言ったら女の子は困っていた。すみません。
何はともあれ2人で乾杯。

スペイン人のホセは今はもう退職していて、毎年カミーノを歩いているらしい。僕の理想とする生活を実現している人だった。ヴィアは今回が初めてだが、スペイン国内は北の道を始めほぼ全て歩いたとのこと。
10月にローマからシシーへ伸びる、アッシジの道、フランチェスコの道?を歩く予定らしい。詳しくはよくわからなかった。当初はイスラエルにあるエルサレムの道を歩く計画を立てていた。しかし今回の戦争で断念することになった。危なくはないが、航空券がすごく高いらしい。
エルサレムにも巡礼路はあり、本当に歩けるんだ!歩く人いるんだ!と驚いた。それこそその道はジーザス自身が歩いた道なのだろうか?
ホセは明日奥さんがローマにやって来て、数日後にはゴールであるローマで娘さんも含めて家族と再会するらしい。素敵なプランだ。彼は3ヶ月前にもローマに滞在していたらしい。ちなみにエルサレム巡礼は危険だからと奥さんには止められているのだとか。なんか動き方がワールドワイドだ。
彼と話に夢中になっていると、いつの間にか15時になった。ホセがオスピタレアと待ち合わせていた時間だ。ホセが慌ててビールを飲み干したので、僕もそれに続いて飲み干すと女の子にお礼を言って店を出た。
バーから100mもないところに宿はあり、僕らがそこに着くと丁度オスピタレアが宿の鍵を開けているところだった。ナイスタイミング。そのまま中へ招かれて手続きを済ませると。オスピタレアとはそこでチャオ!と言って別れた。僕もホセに便乗して今夜はこの巡礼宿に泊まることにした。

僕らは早速二階の部屋へ移動した。4つベッドが置かれたドミトリールームが2部屋あり、自然とそれぞれが一部屋ずつ使うことにした。他に泊まり客もいなかったからだ。ベッドのシーツのことや毛布のことなど、ホセは色々世話を焼いてくれた。本当に善良な人だ。
ホセは部屋でゆっくりするようだったので、バスルーム(共用)を先に使わせてもらうことにした。シャワーを浴びて、一緒に洗濯もする。巡礼スタイルだ。物干しもあったので、それを使って部屋の窓から洗濯物を干した。

その後はごろごろしながら記録をつけたり、久々のシエスタタイムを過ごした。異国のドミトリールームのベッドに寝転んでいると、すごく贅沢な感じがした。何にも縛られていない純粋で自由な自分の時間と空間。何と幸せな時間なのだろう。


17時30分から散歩へ。イタリアの夕方の寛いだ雰囲気がまた良い。
どこかカフェでコーヒーでも飲もうと思ったが、どこも地元の人が多くて、何だか入りづらくて結局さっきビールを飲んだバーに舞い戻った。
ただエスプレッソを一杯飲んで出ようと思ったが、店員の女の子と少し話をした。
彼女はまだ20代前半で、この店で働き始めて3ヶ月らしい。名前を聞かれて答えて、3○歳だと伝えたら、若く見えるね!と言ってくれた。
ここの仕事は好きだと教えてくれた。この辺で美味しいレストランがないか尋ねたら探して、グーグルアースで一生懸命に道案内してくれた。愛嬌もあって本当に良い子だ。イタリアで初めて仲良くなった女の子だった。最後は店の外で手を振ってくれた。なんて素敵な子だろう。そんな時、もっとイタリア語話せたらなと思うのであった。


夕方食べたボガディージョとチョコのせいか、さっき飲んだエスプレッソのせいか、久しぶりに飲んだビールのせいか、少し気分が悪くなったので宿に戻ってベッドに横になった。それが大体19時だった。次に時計を見た時には20時を過ぎていた。寝過ぎた。
部屋のドアは開けっぱなしで寝ていたが、ホセが帰ってきた気配はない。何だか心配になり、探しに行くことにした。多分どこかで一杯やっているだろうとも思ったし、それならそれで自分もバーの女の子が教えてくれたピッツェリアに行こうと思っていた。

結果、僕が行こうと思っていたピッツェリアでホセは一杯やっていた。一石二鳥だ。面白すぎる。
ホセは57歳ですでに早期退職していて、息子と娘がおり、奥さんとは20歳で大学の時に結婚して今でもラブラブでハッピーだと言っていた。奥さんと今年イングランドを旅行するらしい。
彼の話を聞けば聞くほど、ホセは僕にとっての理想の50代になっていった。
店内には店員の女の子が1人いて、ホセは上機嫌だった。彼女が良い話し相手になってくれたらしい。僕も彼にならいピザとビールを頼んで夕食にした。ピザは窯で焼いているのだろう、石焼き感があって美味しかった。

僕らが夕食を食べていると、店主のマイケルも調理場から出てきた。彼は気さくで明るくて頭の回転が早かった。イタリアのエスプレッソについて詳しく教えてくれた。
身も心もすっかりと満たされた僕とホセは、静かなVetrallaの町を抜け宿まで歩いて帰った。


コメント