Rome → Viterbo
ヴィテルボ到着。僕はこの町については一切何も知らない。なので、まずは情報収集する必要があると思い、駅を出てすぐ隣接していたカフェへ入る。
イタリアで初のカフェだ。バールと言ったらいいのか。エスプレッソと、小腹も空いていたので、ディスプレイされていたチョコマフィンも注文。

これがイタリアの本格エスプレッソか、小さなカップにコーヒーが少しだけ入っている。エスプレッソといえば少なくて苦い。それぐらいは知っていたつもりだったが、飲んで驚いた。すごくドロっとしていて濃い。サラサラな液体ではない。でもすごく香りが良いし飲みにくさはない。2口、3口で飲み干せてしまう。

エスプレッソマシンは、チンバリーのセミオート抽出口が3つ。これはイタリアで1番見かけたマシンだった。フィルターをセットすれば、ボタン一つでエスプレッソが出来上がる。
店内では、腕にビシッとタトゥーが入った20代らしい美人店員の女の子と店主が何やら言い争いをしていた。
言い合うこともイタリアらしいのかもしれない。いやわからない。店のカウンターには仕事の合間の息抜きに来たらしい男達がエスプレッソをサッと飲み、また仕事に戻って行く。カッコいい。外のテラス席ではおじいちゃんたちが日向ぼっこをしている。気持ちよさそうな彼らは僕には目もくれない。
店のおじさんから近くのアルベルゲを教えてもらうと店を出た。何やら店を出て右手に進めばゲートがあり、そこを入って曲がればあるらしい。イタリアンエスプレッソも飲めたし、宿も見つかりそうだし、ホクホクした気分でバールを出た。
店を出て、駅から少し登り道を渡って城門のようなものを潜ると、教えてもらった道だと思われるルートを辿って歩いてみた。だが、案の定というか宿は見つけられなかった。その辺をぐるぐる歩いたが見当たらない。
途方に暮れた僕は、ひとまず城門前に戻るとそこに建っていた教会に入って祈った。また自分がこうしてカミーノを歩けること。呼んでもらえたことに感謝した。なんて幸運なのだろう。なんて寛大なのだろう。何という喜び!

教会を出て歩き始めると、街角にヴィアブランチジェナのマークの小さな看板を見つけたので、そこにあった小さなお菓子屋さんに入ってみた。スタンプを押してもらえるかもしれないし、巡礼宿のことも何か聞くことができるかもしれない。
店に入り、1人カウンターにいた奥さんに僕が巡礼であることを伝えると、スタンプを取り出して押してくれた。もしかしたら、小さなヴィアの看板がかかったお店はスタンプを持っているのかもしれない。
続いてアルベルゲについても尋ねてみた。僕はイタリア語が挨拶以外話せなかったので、彼女が翻訳アプリをダウンロードしてくれてそれで会話した。彼女は、僕がこの町で巡礼宿を探していることを理解するとSan Pellegríno 通りにある宿に電話してくれた。
奥さんのスマホから、宿の人で英語が話せるデイビッドというイタリア人の男の人と直接電話させてもらい、話はまとまった。50ユーロと言われて一瞬躊躇したが、そういう相場なのだと思う。それに最初からその想定で予算を組んできていた。
奥さんに場所を教えてもらい、彼女にお礼を伝えるとその宿へと向かった。奥さんはチョコも食べさせてくれたし、宿の場所を説明する時は、わざわざ店の外に出て実際に歩くべき通りを指し示して教えてくれた。
教えてもらったばかりの道を宿へと歩き始めた。今度は宿のある通りをすぐに見つけることができた。奥さんはスタンプにチョコに宿探しに、道案内にと、ありとあらゆる親切なことをしてくれた。本当にありがとう。あなたのこれからの人生に神のご加護がありますように。
予約した宿のある通り『 via pellegrino 』は今度はすぐに見つかった。
巡礼関連の小物のお店や居酒屋が建ち並ぶ趣のある通りだ。細く短いが、どこを切り取っても絵になるぐらい味わい深い。

宿を探してブラブラ歩いていると後ろから声をかけられた。振り向けばそこには高身長イケメンイタリア人青年がいて、僕に近づいてきた。どこかの店の客引きかと思ったら「君がさっき電話で話した日本人かい?」と尋ねられた。彼こそ、先ほど電話で話した宿の管理人デイビッドだった。

低く落ち着いた声だったので、勝手におじさんを想像していた。彼と握手して今自分が通りすぎたばかりの二階建ての建物へ案内されるとそこが宿だった。
部屋もダイニングもキッチンも階段でさえ可愛いらしい素敵な宿だった。デイビッドはお母さんと2人で2020年に始めたこの宿を経営しているらしい。まだ若干21歳なのに堂々としていてハキハキと喋り、テキパキと働く好青年だ。そして英語ペラペラだ。

この建物はもともと彼の生家で、とある家族に貸していたが、その家族が引っ越して使い道がなくなったため、少しでも家計の足しになればと彼の父のアイデアでこの宿を始めたらしい。
2020年は客は0だったが、次第に増えてきて、今ではローマはもちろん世界中から宿泊客が来るらしい。

彼の達者な英語はどのように身についたのか尋ねてみると、「洋楽を聞いたりして学んだよ!」とのこと。海外の人はとにかく学ぶ力、使う力が飛び抜けている。彼は淀みなく躊躇なく的確に英語を使いこなしていた。正直驚いた。本当に洋楽を聴くだけでこんなに喋れるようになるのか….。じゃあ僕ら多くの日本人がやっている学習は一体何なんだ。
雑誌のモデル並みにイケメンで、ジェントルマンだし、仕事はできるし、英語はペラペラだし。何なんだ。ワッツアップの連絡先を交換すると「何でも聞きたいことがあれば連絡してくれ!」と言われた。すごくホスピタリティにも溢れている。きっとこの人は天から巡礼に遣わされた天使なんだ。そうに違いない。僕らは何度も握手して別れた。
部屋は完全個室、ダブルのベットにトイレにシャワーにバスタオルに全て揃っていた。インテリアも内装も素敵だ。壁には天使があしらわれている。

部屋に荷を降ろすと、町を散歩に出かけた。歴史的な建物や雰囲気のある通りを眺めながらブラブラ歩く。
宿から少し歩いたところには大きな教会があり、教会前の広場ではガイドさんに案内された団体ツアー客達がいた。それとは別にティーンエイジャーのグループもいて、こちらは修学旅行みたいなものだろうか。話している言葉はフランス語に聞こえたが、定かではない。

彼らを横目に教会周りを少し見学すると、宿へ戻りつつ町をさらに散策してみた。教会周り(旧市街)は静かだが、城門から延びる大きな道を下れば車がひっきりなしに走る忙しいエリアもあった。
教会近くにはヴィアブランチジェナの巡礼路を示すサインがあったが、どこへ向かうべきかいまいちわからず、近くの広場のお土産屋の壁にかけられていた町の地図を眺めていた。その日のうちに明日進めべきルートを確認しておくことは、翌日のスタートに余裕を生む。

町の全体図とヴィアのルートが頭の中で一致せず、あれこれ思案しながら地図を眺めていると、隣りで知り合いとおしゃべりしていたおばちゃんが話しかけてきてくれた。彼女は地図の看板がかけられている土産屋の主人で、迷っていた僕に巡礼路の進み方を教えてくれた。ありがたい。
お礼にという気持ちもあり、彼女の土産屋で何か買うことにした。お店に入ったらおばちゃんは店で売っているお菓子を食べさせてくれた。結局さらに親切にしてもらった。
店の品々をしばらく眺めて、ヴィアフランチジェナのルートをあしらったマグネットを買った。おばちゃんは値段をまけてくれた。イタリア、あるいはイタリア人にはお金やビジネスではない何かある。そう思った。
途中パン屋で食料を買った。パン屋の美人な店員さんは英語ペラペラで仕事が早くて手際良く、何よりフレンドリーだった。
「美しい町だね!」と伝えると「私はこの町を愛しているわ。とても美しいの!」と誇らしそうに話してくれた。
彼女にどこか美味しい夕食が食べれるレストランがないか尋ねると、ガルゴロというお店を紹介してくれた。ということで、パン屋のお姉さん一押しのレストラン「ガルゴロ」へと夕食を食べに行ってみた。

ワイン、パスタ、ティラミスにエスプレッソ。一品一品が最高だった。普段日本で食べているイタリアンとは全然違っていて、僕らが普段食べているイタリアンは、日本人が日本人向けに作っているものなのだと感じた。イタリアンイタリアンは僕の五感には全くもって新鮮で刺激的だった。
イタリアの甘く美味なワインが、旅で凝り固まった緊張を解きほぐしてくれて、パスタは最初量の少なさと変わった形に戸惑った(水餃子みたい)が、オレンジピューレが新鮮で食べていくうちに最後は満足していた。見た目とは裏腹にしっかりとお腹にたまるパスタだった。

ティラミスはケーキというよりムースみたいでふわふわしていた。めちゃくちゃ美味しかった。エスプレッソは酸味と苦味があって甘みがあまりなかった。ティラミスの後だからだろうか。

さすが地元民一押しのレストラン。il gargoloは水曜なのに、8時から店は混み始めた。ホールの店員さんは走り回っている。厨房で何人ものスタッフが忙しそうに料理を作っている様子が、料理の音と、厨房とフロアを仕切るドアの小窓から見えるわずかな情報から伝わってきた。その忙しさの中でさえもサービスは行き届いていた。
テーブルはほぼ全て埋まっている。これがイタリアのリストランテか。
ホールのお兄さんと少し話をした。彼はここの出身ではなく、ここで働く前はドイツにいたらしい。色々と物語がありそうだったが、店が混んできて、あまり詳しくは聞けなかった。髪は短く切り揃えられ、上から下までビシッと正装していてカッコいい。

夕食を食べていると、突然アコーディオンを奏でながらおじさんが店に入ってきた。どうやら大道芸人らしい。皆見向きもしなかったが、僕だけ2€あげた。地元の人たちは目もくれないので、きっと見飽きているのかもしれない。
久々のお酒と本場のイタリア料理で気分は上々になり、ややフラフラしながら宿へ戻った。
宿に戻っても、他に宿泊する巡礼はいない様子だったので、今夜は一棟丸ごと貸切らしい。
久々のワインで眠くなり、その晩は早々に寝た。


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