【ヴィア・フランチジェナ】 〜ローマへの道〜 1日目

サンティアゴ巡礼記

6月29日 Dublin → Martighy

 変な夢を見て、一人笑いしている自分に気づいて目が覚めた。ダブリン空港内のベンチ、時刻は4時。飛行機の出発時間は7時10分だったので、そろそろ行動を開始することにした。

 歯を磨くと空港内のカフェで朝食を食べた。今朝はチョコクロワッサンとオレンジジュース。早朝から営業してくれているのがありがたい。食後はチェックイン、手荷物検査、搭乗とスムーズに進み、飛行機は一路スイスへと飛び立った。またいつか、アイルランド、ダブリンを訪れることがあるだろうか。

 スイスは一体どんなところだろう。今回はカミーノを歩いた時ほど情報がない。機内ではひたすら寝ていて、気がついたらチューリッヒ空港に着陸するところだった。

 チューリッヒ空港は全てが洗練されていた。何もかもがいちいちお洒落で、モダンで、おまけに見かける人々は美男美女ばかり、皆エレガントな装いをしているが、本人たちは特に気取っている風には見えない。さも当たり前のように美しさが自然と滲み出ている。

 入国審査は一瞬で終わった。
「どこから来たの?バケーション?」という簡単なやりとりで終わった。それまで入国審査で面倒なことにならないか不安だった僕は、拍子抜けしてしまった。ちなみにアイルランド入国の際、ダブリンの空港の入国審査では厳しく問い詰められ、バックをひっくり返してありとあらゆる書類を全て提示しなければならず(審査官は怪訝そうな顔でそれらを一つ一つ手に取り物色していた)、最後にはアイルランドの文豪シェーマス・ヒーニーへの愛を語ることで、かろうじて入国審査を通過することができた。結構焦ったし、かなり必死だった。スイス人は優雅で、おまけに寛容らしい、この余裕は一体どこからやってくるのだろう。

 何はともあれ、無事にスイス入りできた。空港内を歩いている途中、携帯のSIMを売っているお店を見つけた。スペインでカミーノを歩いている時はSIMを持っておらず、Wi-Fiのある環境でしか携帯を使うことができなかった。連絡を取りたい時に取れないのはそれはそれで不便なことだったので、少し値はしたが(70€=8,750円)買ってみることにした。少し手こずったが、お店の人に設定をしてもらい無事に使えるようになると、アフリカ系の店主と握手をして別れた。

 お腹が空いてきたので、今度はパン屋に寄ってみることにした。僕はここでまずスイスの洗礼を受けることになる。パンが2個(安いものを選んで)で10€(1,250円)もしたのだ。空港のものは基本的に何でも割高だけれど、これまで旅してきたスペインとの物価のギャップに驚いた。だが確かにパンは美味しかった。

 検討した結果、まずはMartighyという町にに向かうことにした。行き先が決まると早速宿を予約した。一泊79€(9,875円)は痛かったが、「払うときは払わなければ何も始まらない!」そう割り切ることにした。カミーノと一緒で、スタート地点さえ決まればあとは具体的だし簡単だと思う。簡単だと思っていたのだ…。

 カミーノ・デ ・サンティアゴを無事に歩き終えた僕は、これから『ヴィア・フランチジェナ』に挑戦しようとしていた。

 ヴィア・フランチジェナとは、簡単に言うとイタリア版カミーノのことを言う。聖地ローマへと続く巡礼路の総称である。その道はカミーノ同様ヨーロッパ各地から伸びていて、カミーノ同様歩く巡礼を巡礼路上のサインが導いてくれる。

 今いる空港のターミナルの隣の建物へと移動し、インフォメーションセンターで情報収集した結果、Martighyへは電車で行くことになった。インフォメーションセンターで電車の時刻表をもらうと、早速チケット売り場へ向かった。何せ出発時間が迫っていた。チケット売り場に券売機はなく、3つあるチケット販売所の窓口の前には、乗車券を買い求める人達が列を作っていた。

 僕の順番はなかなか回ってこなかった。なぜならば窓口で対応にあたるスタッフさん達は皆親切でフレンドリーで、たまに客と何かを話し込んだり談笑していたので受付ちのラインは遅々として進まない。僕の順番がやってきた時には出発の10分前だった。

 受付には30歳ぐらいのお兄さんが座っていて、物腰柔らかく丁寧かつ迅速な対応をしてくれた。そういうところにもスイス人の心の余裕を感じる。だが焦っていた僕は彼のその余裕にヤキモキしていた。

 ギリギリだったがなんとか電車に間に合った。電車内は混んでいて席には座れず、通路の階段状になったところに腰掛けた。次の駅で多くの乗客が降りると、そこからは席に座りスイスの町や人や自然を眺めながら過ごした。電車の旅も悪くない。

 今日は土曜日で天気が良いからか、多くの人々が川で泳いだり、ボート遊びをしてるのを見かけた。皆楽しそうだし気持ちが良さそうだ。

 Visp駅で乗り換えがあったが、周りの人に尋ねながら無事に乗り換えることができた。周りは皆フランス語を話していたので、ここでは英語は少し浮いて聞こえる。VispからMartighyに近づくにつれて景色の中に木々の緑が増えてきた。どうやら山間部に向かっているようだ。

電車の車窓から見た景色。あの山脈はアルプスだろうか。

 Vispから1時間ほどでMartighyに到着。Martighyは小さな町で、山の麓にあり、町中では多くの人々がBARで一杯やっていた。いつも肌寒いアイルランドとは違い、ここは逆に蒸し暑い。Googleマップを頼りにメインストリートだと思われる大通りを歩き始めた。アジア人が珍しいのか、そもそも旅行者自体が少ないのか、住民からジロジロ見られているのを感じた。

 予約しているホテルの場所が分からず、途中で親切なパン屋のお姉さんに道を尋ねてようやく今夜の宿に到着。ホテルの一階はBARになっていて、スタッフのお姉さんが受付をしてくれた。

 案内された部屋はビジネスホテルのシングルルームのような広さで若干蒸し暑い。こちらに来るまではまさかスイスが蒸し暑いなんて想像もしていなかった。今はたまたまそういう時期なのかもしれない。

Martighyは山間の可愛らしい町という印象だった。

 まずは洗濯に取りかかった。カミーノ・デ ・サンティアゴを歩き、その足でアイルランド旅行をしてきたのだが、それらの旅の”アカ”が落ちていないように感じていた。新しい旅を始める前に、それをまずは綺麗にしたかった。

 洗濯が済むと今夜の夕食の買い出しに行くことにした。町のスーパーは閉まっていたので、ホテルの横にあったガソリンスタンド兼コンビニで食料を調達した。水とパンとチーズ。カミーノと同じスタイルだ。一番安い価格のものを少量ずつ買ったのだが、それでも8.2CHF(902円)した。スペインであれば400円もしない買い物だ。改めてスペインや日本との物価の差を感じさせられた。

 夕日はすでに山の向こうへと隠れてしまっていた。町の広場に面したレストランでは、子供からお年寄りまで多くの人が夕食を楽しんでいた。自分はというと部屋へ戻ってボガディージョを作って食べた。

 何だか人恋しくなった僕は、「いつだって一人分は二人分に十分なんだ」と感じた。誰かと何かを分け合いたいが分け合えない。分け合える人がいて、自分が少なくとも何かを持っているなら、いつだって、どんなものだって、分け合う気持ちで二人分にできる。

 そうして満たされるものがある。

少ないから満たされないのではなくて、分け合えないから満たされない時がある。

二日ぶりのシャワーを浴びると、荷物を整理して日記を書いて眠りについた。

 

本日の支出(1€=125円、1CHF=110円)

・クロワッサン、コーヒー  4.6€
・パン、ボガディージョ、チョコ 10€
・水 2.3€
・SIMカード 70€
・電車代(Martighyへ)108CHF
・宿代 79CHF
・夕食(パン、チーズ、水) 8.2CHF
 合計          86.9€+195.2CHF=32,433円

コメント

タイトルとURLをコピーしました