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【サンティアゴ巡礼】- ルピュイの道 – 1日目  

サンティアゴ巡礼記

12月18日 Paris → Le Puy-en-Velay

 シャルル・ドゴール空港到着。めちゃくちゃ緊張している。照明や誘導等などがキラキラと輝く空港は、その内に今回の旅で起こるであろう何かを暗示しているようで、静かに妖しく輝いていた。

 僕は今、お腹の底から緊張していた。自分にとって、今回の旅はまさに荒れ狂う海に崖の上から身を投げるような旅だった。大袈裟かもしれないが、自分ではそのように感じていた。

 ここに至るまでの過程の話だ。どこをとってみても不合理で、突発的で、謎のうちなる強制力により、気づけばパリ行きのチケット購入のボタンをポチッと押していた。未知すぎて、謎すぎて、意味不明だが、直感だけが執拗に何かを訴え続けていた。

 飛行機を降りるとバタバタと中国人の波に乗って進んだ。僕が乗っていた便の7割以上の乗客は中国人だったように思う。列車に乗ってターミナルを移動。なんだろう、この中国人に囲まれている安心感。同じアジア人に囲まれているからだろうか。彼らのワイワイガヤガヤとした陽気な雰囲気がそう感じさせてくれるのだろうか。そのどちらでもあるかもしれない。

 入国審査は秒で終わった。即通過。日本その他フランスと友好関係にある国のレーンだから早かったのだろうか?入国審査を終えると、まずは出口から空港の中へと進み、まずは現金の両替をすることにした。

 両替所へ行き4万7千円の手持ちの円のうち4万円分をユーロに換金した。特に計算して弾き出した金額ではなかったので、これが最善の選択かはわからない。そんなふうに考えていると、7千円残す意味なくない?と気づき結局7千円も全部ユーロに両替した。空港内のATMでキャッシングしようとしたがなぜかお金を引き出せず、少し不安になる。

 両替所のお兄さんは気さくな人で、彼の持つその明るい雰囲気のおかげで少し緊張も和らいだように感じた。彼との話の中で、ルピュイへの行き方もそれとなく尋ねてみたが、「僕もここに来たばかりでわからないよ!」とのことだった。彼は一体どこからやってきたのだろう?

 僕は今回フランス国内にあるカミーノ・デ・サンティアゴの巡礼ルートの一つ「ルピュイの道」を歩く予定でフランスへとやって来ていた。だが、今回も例によって下調べをろくにしておらず、そもそもルピュイの町がどこにあって、どのように行けば良いのかわからないままで来ていた。「とりあえずパリに着いたら電車で行くらしい」というその程度の情報しか持ち合わせていなかった。

 とりあえず唯一の手掛かりである電車と駅を探そう!というシンプルかつ本質的な考えに従い、案内板の指示に従って空港に直結している駅へと向かった。駅の場所がわからず、近場にいた赤いジャケットを着た空港スタッフの人たちに助けられながら無事に電車の券売所に到着。

 国際線ロビーから2階下にある券売所では、空港からフランス国内の方々へ電車で向かうのであろう人々が券売機でチケットを買っていた。そして、傍ではそれをサポートするためのスタッフの女性達が働いていた。ロープで仕切られたレーンに並んで自分の順番を待つ、と隣のレーンが空いたのでそこにいたスタッフの女性がロープを潜っておいで!と招いてくれた。彼女はとても美しい黒人の女性だった。おまけにとても親切だった。

 行きたい場所を説明すると、そこまでの乗り継ぎについてスマホで検索してその画面の写真を撮らせてくれた。それに加えてざっと説明をしてくれたのが、いまいちわからない部分も多かった。それでももう電車の時間は迫っているし、行くしかない。プラットフォームに着くと「Gare du Nord ?」とか「Gare de Lyon ?」とか尋ねながら、どうにかLyonまで辿り着いた(どちらも駅の名前だ)。ここで地下鉄から鉄道に乗り換えるらしい。

 地下鉄の電車の中では、皆よそよそしくて目を閉じたり俯いたり眉間に皺を寄せていた。日本も同じようなものだと思うし、自分も緊張して険しい顔をしていたかもしれない。ただ人々のそういった表情が印象的だった。電車の中は人種のるつぼで、フランス人、イスラム系、アジア系、その他様々な人達が同じ車両に乗り合わせていた。ちょっと不安定な空気、よそよそしい感じが漂う。だがそんな中でも、降りる人に道を作ってあげたりといった親切は常に見られた。やっぱり僕らは同じ人間なのだ。

 というかフランス寒い。日本とは、少なくとも僕の住む地域の寒さとは全然違う。芯から冷える。この寒さの中、本当に明日から歩き出せるのだろうか。少し不安になった。乗り換えの時に地下鉄の駅でエスプレッソを飲んでクッキーを食べたら元気になった。売店の店員さんの笑顔が素敵で、まず彼女の素敵な笑顔で安心感を感じた。人がいて食べ物があるところには心をホッとさせてくれるものがある。特に旅先ではそれを強く感じる。

笑顔とコーヒーとクッキーで僕の心を落ち着かせてくれた駅の売店。

 駅の中で気になったのはホームレスの人が多いこと。移動中5分で3人ほど見かけた。皆女性だった。一人はおばあちゃんだったが、後の二人はまだ20~30歳と思しき女性だった。通行人は皆忙しく彼女らの前を通り過ぎて行った。

地下鉄駅構内から地上へ出ると、そこはフランスの鉄道会社SNCFの電車乗り場になっていた。外は屋内よりかなり寒い。近くにいた駅員さんにチケットの買い方を尋ねると、「駅前の通りに同僚がいてチケットを売っているから、そこでチケットを買って戻ってきて!」と言われたので、少し急足で券売所へと向かった。綺麗なオフィスのような券売所ではキビキビしたフランス人のお姉さんが対応してくれて、デジタル券売機の使い方とチケットの買い方を丁寧に教えてくれた。

駅のプラットフォームはどこからかやってきた人、どこかへ向かう人達で溢れていた。

 ルピュイまでのチケットは79€、結構いい値段だ。だが、日本でも新幹線はこのぐらいの価格帯かもしれない。チケットを無事に購入できた、出発は12時52分、ルピュイ到着は17時20分。出発の時間までどこか暖かい場所で寒さをしのごうと思い、近くにあったカフェに入った。メキシコ人っぽいお兄さんが接客してくれた。フランス語はもちろん、注文や何にしても不慣れな僕にも優しく笑顔で接してくれた。とても親切な人だった。

 先ほどまで、ルピュイはどこにあってどうやって行けば良いかもわからなかった僕だったが、親切なフランス人達によって道は示され、目的地までの切符を、今は形あるものとしてこの手に握りしめていた。それは考えてみたら不思議なことかもしれない。

 ここのカフェにはメニュー表がなく、スマホでコードを読み込んで注文するらしい。お兄さんがお店のスマホを使ってメニューを出して見せてくれた。フランスでは何かを尋ねると大抵皆親切に教えてくれるし、別れ際には「よい1日を!」と笑顔を見せてくれる。なんて素敵な人々だろう。カフェは僕に暖かさと落ち着きを与えてくれた。

 こうして一息つける場所に腰を下ろして周りを見てみると、そこに二つの世界があることに気がついた。一つはカフェの通りに面するガラスを挟んでこちら側の世界、そこには飲み物や食べ物をテーブルに乗せ、リラックスして友達と過ごしたり、自分一人の世界にいる人々の世界。もう一つはガラスを挟んでカフェの外の通りにある世界、人々はどこからかやってきてどこかへ向かう途中であり、忙しく動き回るシステムとスケジュールの世界。

カフェの中の静の時間と、カフェの外の動の時間。

 カフェとはシェルターであり、オアシスであり、世界中どこにいても自分でいられて、自分に戻れる場所なのだと改めて気づいた。僕らには忙しい心をホッとさせてくれる、何か温かい食事であったり落ち着ける場所が必要なのだと思う。僕にはカフェのない世界なんて想像できない。

 店内の隅の窓際の席、座り心地の良い椅子と、広く滑らかな木製のテーブル、南米系のお兄さんが運んできてくれた香ばしいパンと温かいコーヒー。それは僕に「ここにいていいよ」と言われているような安心感を与えてくれた。

 そんな居心地の良い場所から、喉とお腹を満たしつつ、たまに覚書きなどしながら、忙しなく行き来するフランス人達を眺めていた。

温かくて甘いものは忙しい心をホッとさせてくれる。そこでようやく周りが見えるようになる気がする。

 お腹が空いていたのでおかわり。クロワッサン最高。

本場フランスのクロワッサンは香りから食感から全部違った。

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