アイルランド留学⑨ 「キルメイナム刑務所 後編」

ヴィア・フランチジェナ

 キルメイナム刑務所に到着。刑務所は石造りの大きな建物で、その外観からして重々しい雰囲気が漂っていた。建物内に入ると、ツアーガイドさんを先頭にキルメイナム刑務所ツアーが始まった。

 そもそもキルメイナム刑務所とは、1796年に開設された刑務所で、アイルランド独立戦争終結後の1924年に閉鎖、現在は博物館として利用されている。

 開設当初はダブリンの郡刑務所として利用されていたらしいが、イギリスからの独立を求めてアイルランド反乱が始まると、多くの政治犯が投獄、処刑されることになった。

 1916年に起きたアイルランド最大の反乱「イースター蜂起」の指導者の一人であるジョセフ・プランケットもその一人で、彼は刑務所内にある教会で婚約者のグレース・ギフォードと挙式した数時間後に処刑された。

 刑務所は増築を繰り返し、独房の数は79にまで増えた。刑務所最古の独房は、石の冷たさが伝わってくる、暗く重く、じめじめとした場所だった。独房には窓もなく、その寒さと湿気から体調を崩す囚人も少なくなかった。

 独房を見学したたった数分の時間でさえ寒さと居心地の悪さを感じたので、そこに収監されるということの過酷さは想像を絶するものだったに違いない…。

 その当時のアイルランドは飢饉に見舞われ、とても貧しく食べ物がなかった。飢えに苦しんだ人々は意図的に犯罪に手を染め、食べ物を得るためにキルメイナム刑務所に収監された。すると狭い独房に5人の囚人が詰め込まれるなど、環境はさらに悪化。おまけに独房は性別で分けられておらず男女が同じ独房に入れられていた。その中には子供達もいたらしい。いかにアイルランドが苦しい状態にあったかということがそのことから分かる。

 ツアーの最後は処刑場を見学した。処刑場は屋外にあり、砂利敷きの高い壁で囲まれた場所で、無機質な場所だと感じた。人間性の対極にある漂白され切った冷たさ。喉の渇くような乾燥した空気。この場所でアイルランドの独立を求めた指導者達が銃殺された。彼らはここで何を思いながら最期を迎えたのだろう。

 処刑場には、そこで命を落とした人々を弔うための十字架が建てられていた。ツアー参加者はそれぞれ厳かな気持ちになっているようだった。

 ツアーはそこで終了、屋内へと戻るとキルメイナム刑務所関連の展示スペースを見て回った。そこには数多くの資料があり、とても今回だけで学び切れるものではなかった。

 僕は英語を学びにアイルランドに来た。そのフレンドリーな国民性と、治安の良さに惹かれてこの国を選んだ。けれど、明るく見えるこの国には悲しい歴史があった。僕はキルメイナム刑務所とアイルランド人、そしてアイルランドという国について、英語以上に学ぶ必要があると感じた。

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