【サンティアゴ巡礼】フランス人の道 – 20日目 –

サンティアゴ巡礼記

『達成感と、満足感〜僕らを生かすもの〜』
5月25日 Calzada del Coto → Calzadilla de los Hermanillos 8km

 コーヒー、ミルク、パン、クッキー、ジャム、バター。出発の支度をすませてダイニングへ行くと、テーブルの上には種類も量も豊富な朝食が綺麗に並べられて置かれていた。オスピタレオが朝早くから用意してくれていたらしい。本当に有難い。

 今朝のオスピタレオの目にもう涙はなく、「たんと召し上がれ!」と言っているような優しい笑みを浮かべていた。朝食を食べているうちに力が湧いてくるように感じたのは、食べ物にオスピタレアのホスピタリティを感じたからかもしれない。

 朝食を食べていると、
「私も以前はトレドからカミーノをよく歩いたよ。」
とオスピタレオが話してくれた。やはり彼もかつては巡礼だったらしい。かつて巡礼者だった人が今度はオスピレオ、オスピタレアとして巡礼宿を始める。カミーノではそんな人達を多く見かけた。

 朝食を食べ終え食器を片付けると、香港人親子も朝食を食べに現れた。コトでの滞在時間はとても短かったけれど、すごく印象に残る時間だった気がする。少しでもオスピタレオの役に立てたらと思い、持っていた大量のバンドエイドと少しばかりのお金を寄付した。

 ホスピタリティの化身のようなオスピタレオが運営する、この設備の整った居心地の良いアルベルゲは巡礼の寄付により成り立っていた。昨日の受付時に宿代を寄付する際、僕が寄付箱にお金を入れようとするとオスピタレオはそれを見ないようにそっぽを向いた。その仕草が可笑しくて、「この人は善良な人なんだな」と感じた瞬間でもあった。間違いなくこのアルベルゲはカミーノで最も素敵なアルベルゲの一つだと僕は思う。

 出発の際、バックパックを背負う前にオスピタレオとギュッとハグをした。その短いハグの中にありったけの感謝の気持ちを込めた。そのハグから改めて彼の温かい心を感じることができた。

 バックパックを背負うと、香港人親子に
「ブエン・カミーノ!」
オスピタレオに
「グラシアス!」
と告げてアルベルゲを出た。

カルサーダ・デル・コトを出発。

 次第に明るくなり始めた巡礼路を、心に優しい雨が降っているかのようなみずみずしい気持ちで歩き出した。僕は今古い巡礼路であるトラハナの道の上にいた。昨日分岐地点を見落としていて、気付いた時にはトラハナの道の上にいたのだった。しかし、そのおかげでコトでの素晴らしい時間を過ごせたので結果オーライだ。

 次の村カルサディージャ・デ・ロス・エルマニジョスまでは赤土と砂利の道で、巡礼は誰も歩いておらず、出会ったのは二頭の鹿と地元の人が運転するトラック一台だけだった。

赤土と砂利のトラハナの道。

 エルマニジョス村に辿り着く手前にはFuente del Peregrino(巡礼の泉)があり、湧き出る水で足を冷やして休んだ。凍るような冷たい水に足を浸すことが足の疲労に一番効果がある。左足の裏の痛みもだいぶ良くなってきているようだった。

 コトを出発して2時間半、カルサディージャ・デ ・ロス・エルマニジョスに到着。そこはコトと同じような大きさの村だった。時刻はまだ朝の10時で、8kmしか歩いていなかったが、僕は「この村に泊まりたい!」という気持ちで一杯になり、足はいつの間にか公営のアルベルゲへと向いていた。

カルサディージャ・デ ・ロス・エルマニジョスに到着。

 だが辿り着いたアルベルゲはまだ開いておらず、外でシーツを干していたオスピタレアに尋ねると
「昼過ぎにならないと開かないよ!」
と言われた。時間を持て余した僕は、村の入口にあったバルでコーヒーを飲みながら日記を書いて待つことにした。

バルでコーヒーを飲みながら日記をつける。この時間が至福のひとときだったりする。

 バルのテラスから巡礼路を眺めていると、目の前を巡礼がやって来ては去って行った。その内の何人かはバルへやってきて
「ふ〜!疲れた〜!」
といった感じで席に座り、食べたり飲んだりしてエネルギーを蓄えていた。

 アルベルゲが開く時間になると、バルを出てアルベルゲへと向かった。驚いたことにアルベルゲの受付にはすでに5、6人の巡礼が列を作って待っていた。この村に居心地の良さを感じたのはどうやら僕だけではなかったらしい。受付待ちの列に加わり、僕の順番が回ってくると、
「あなたが一番早かったのにね!」
とオスピタレアに言われた。

のどかな村を散策。

 昼からはあり余った時間を散歩と日記の執筆に費やした。天気はとても良くて、のどかな村を散歩するのは気持ちが良かった。

 夕方になると村のTIENDA(TIENDAと書かれているお店では食料や日用品が買える)でボガディージョの材料とオレンジを書い、村の中にあったベンチで食べた。いつも通りボガディージョは美味しかったが、何か物足りなかった。

 「なんだかしっくり来ないな」という気持ちで食べていた時に、ふと”今日自分がしたことに満足できていない”ということに気がついた。

 もう日が暮れようとしているが、今日はまだ何の達成感も得られていなかった。与えられた1日を少しの達成感や満足感も得ないまま終えようとしていることが、何だか罪深いことのように感じた。歩き過ぎるのはもちろん良くないし、くたびれたらゆっくり休むことはとても大事だけれど、もしその力があるのであれば”満足のいくところまで歩くこと”はそれと同じぐらい必要なことだったんだ。と改めてというか、今更ながら気づかされた。

 「今日はやり切った!」と思える日こそ、ボガディージョにかぶりついた時に「うまー!」と思わず顔が綻んでしまう。ボガディージョは体調だけでなく、達成感のバロメーターでもあるようだった。

 今日の手応えは明日の弾みになる。極端になりすぎないように、自分の生き方のバランスを取りながら進むことが、自分にとって一番良いペースなのかもしれない。速くもないし、遅くもない。

 歩き過ぎて不調になることは散々経験してきたが、今回”歩かな”過ぎて不調になることを経験してみて思ったことは、
”僕らは毎朝、生きるための新鮮な力を与えられていて、それは熟れた果実のように食べ損ねると腐ってしまう”ということだ。

 与えられたのなら、惜しまず使う。進めるうちは進み続ける。カミーノにおいては日々歩き続けることが僕ら巡礼の存在意義なのかもしれない。

 必要な力はいつもすでに与えられている、あとは僕ら次第。生きている限り僕らは進み続けなければならない。村から村へ、今日から明日へ、その先の豊かさへ、夢見る場所に辿り着くその日まで。そもそも僕らを生かす力は一体どこからやってくるのだろう。

 「明日は歩くぞ!」
村のベンチで夕食を食べ終えた僕は、そう意気込むとアルベルゲへと戻った。

本日のアルベルゲ

Calzadilla de los Hermanillos (Calzada de los Hermanillos)

 Tel : (+34) 987 330 023

 年中無休 〜22時 
 予約不可

 ・宿代 寄付

 ・ベッド数 22

 ・キッチン
 ・リビングルーム
 ・会議室
 ・シャワー室 4
 ・お湯
 ・洗濯機
(洗濯3€、乾燥2€)
 ・洗濯場/物干し綱
 ・ロッカー、衣装ダンス
 ・コンセント
 ・薬箱
 ・インターネット
 ・コンセント
 ・駐輪場なし(宿泊者が少ない場合屋に限り屋内に駐輪可)

本日の支出

項目
コーヒー1.5
パン、チーズ、クッキー3.8
パン、ヨーグルト、チーズ1.9
寄付(コトのアルベルゲ)5
合計12.2
1,525円(1€=125円)

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