【サンティアゴ巡礼】フランス人の道 – 17日目 –

サンティアゴ巡礼記

『分け合うと増えるもの〜川下りと川上り〜』
5月22日 Población de campos → Carrion de los Condes 16.5km

 昨夜寝室に地響きのような、ものすごいいびきをかく人がいた。どこでもいつでも寝れてしまう僕もさすがに「今日は長い夜になりそうだ…」と覚悟した。だが幸いかなり疲れていたので気づけば寝ていた。他の巡礼達は良く眠れたのだろうか。

 目が覚めると5月病はすっかり癒えたようで、昨日感じていた寂しさはどこかへ消えてしまっていた。”人と一緒に夕食を食べる”という当たり前のような行為が5月病に効くなんて今まで知らなかった。寂しさがここまでメンタルに影響することもまた知らなかった。

 支度を済ませると7時にはアルベルゲを出発。昨夜夕食を食べたホテルで朝食を食べることもできたが、昨晩の夕食がまだ完全に消化されておらず、まだ食べる気にはなれなかった。なのでそのままホテルを通り過ぎて村の出口へと進んだ。

 村の出口に辿り着くと、巡礼路は左右二手に分かれていた。「どちらに進めばいいんだ…」進路に迷ってガイドブックで確認しても、その分れ道については書かれていない。左へ進めば車道沿いの道、右へ進めば林や小麦畑の中を歩くことになりそうだ。「車道沿いは嫌だし、右へ進んで自然の中を歩こう!」そう決めて歩き出した時、
「巡礼路は左だよ!」
後ろから歩いてきたスペイン人巡礼が、親切にも声をかけてくれた。慌てて左へ方向修正して再び歩き出す。教えてくれてありがとう!タイミングが良すぎる。

 巡礼路は車道に沿って、真っ直ぐどこまでも伸びていた。次の村までは特に見事な景色がある訳ではなかったが、ゆっくり何も考えずに歩くには丁度良い道だった。

 最近あれこれ考えすぎる。今日は先を焦らず、過去を振り返らず、目の前の一歩のことだけを考えて歩くことにしよう。そうして歩いているとビジャメンテロ・デ・カンポスに到着。一休みするほど疲れてもいなかったので、給水だけするとすぐに出発した。

 村を出てしばらく歩いていると、昨夜夕食を共にしたオーストリア人のおじさんが追いついて来た。夕食の席では彼と席が近かったが話す機会がなかった。彼は他の人と話している様子もなかったのでシャイな人なのかもしれない。

巡礼を楽しませようという心遣いだろうか。ほっこりする。

 なので、
「朝食は食べなかったのか?3€で食べれたのに。」
と彼の方から話しかけてきてくれた時は嬉しかった。彼も僕と同じく、今夜はカリオン・デ・ロス・コンデスに泊まる予定らしい。
「カリオン・デ・ロス・コンデスから先は、18kmの間村もなければ、人もいない区間を歩くことになる。だから水と食料はしっかり用意した方が良い。ここからカリオン・デ・ロス・コンデスまでの距離は短いから早い時間に到着するだろうが、俺は明日に備えて休むことにするよ。」
とアドバイスも交えて話してくれた。
「カリオン・デ・ロス・コンデスで会おう!」
そう言ってその場は別れた。

 話こそしなくても、一度食事を共にすれば僕らはもう他人ではなくなるのだ。また一人友達が増えたことにほくほくと嬉しい気持ちになった。

キャンプ場?のような場所。

 次の村ビジャルカザール・デ・シルガにも気がつけば辿り着いていた。昨日とは時間の進み方がまるで違う。昨日の時間は川の流れに逆らってボートを漕いでいるかのように辛く、しかもなかなか進んでくれなかった。しかし今日の時間の進み方は、ボートが川の流れに乗っているようにスムーズに進んだ。一漕ぎ一漕ぎは軽く、滑るように前へ進んでいくようだった。

 昨日の時間の過ごし方だと、1日が終わった時には自分が何歳も歳を取ってしまったかのように疲れ切ってしまう。それに対して、今日の時間の進み方だと楽に多くのことを達成できるし、1日の終わりには充実感と更なるエネルギーが蓄えられている。

 やろうとしていること、そしてそのやり方が今の自分の心とピッタリ合っているかどうかで、川を下るのか、それとも上るのかが分かれるのかもしれない。調和を意識してのんびり気ままに歩く方が、息を切らして全速力で走るより、最終的には目的地に早く辿り着けるのかもしれない。

 日々をそのように生きられたらどれだけ良いだろう。”歩く”という単純な行為の中にも、生きることについての深い学びがあるような気がする。

 今日の残りの行程はわずか6km。時刻はまだ10時だった。余裕もあったので、ビジャカザール・デ・シルガで朝食を食べることにした。バルを探して村の中へ入って行くと、今までに見たことのない四角く角ばった教会を見つけた。教会の外壁には美しい蓮の花のようなレリーフも飾られていて、陰鬱な雰囲気が全然感じられず、明るい雰囲気だった。

 その教会の向かいにバルがあったので、バルのテラス席で教会を眺めながら朝食を食べることにした。陰になったパラソルの下は少し寒かったが、朝の新鮮な空気の中で食べる朝食は美味しい。朝の定番メニューになりつつあるナポリタナとコーヒーを頂きながら、教会や地元の人達を眺めたり、日記を書いて過ごした。

四角い教会とバルのテラス席。

 時間をかけて朝食を食べ終えると、村を発つことにした。村の出口でオンニ達に再会。出会い頭に、
「パチーン!」
とハイタッチを交し、これから朝食を食べるという彼女達と
「後でね!」
と言って別れた。今となっては彼女らとは昔からの友達のようだ。友達との繋がりの糸が太くなることは、今の僕にとって大きな喜びとなっていた。

定番の朝食。ナポリタナとコーヒー。

 村を出発してすぐに、中年の韓国人夫妻と知り合いになった。夫妻も今回が初めての巡礼らしく、ブルゴスからスタートし25日間の日程でサンティアゴを目指しているとのことだった。カミーノを歩く韓国人の数は多い。韓国でのカミーノブームは、あるTV番組がきっかけであると夫妻は教えてくれた。

 しばらく夫妻と3人で歩いたが、僕らのペースは違ったので途中から段々と離れていった。彼らも今夜はカリオン・デ・ロス・コンデスに泊まるらしい。今この辺りを歩いている巡礼達の目的地もおそらく同じだろう。

モホンと花。

 カリオン・デ・ロス・コンデスにもあっという間に着いてしまった。時間とかエネルギーといったものの尺度が今までとは全然違う。何はともあれ、町の中へと進み観光案内所へと行ってみると、そこで今朝話をしたオーストリア人のおじさんと再会できた。

カリオン・デ・ロス・コンデス到着。

 僕が泊まろうと思っているアルベルゲと同じ所に泊まる予定だと言う彼が、
「アルベルゲはまだ開いていないよ。」
と教えてくれた。それでも早めにベッドを確保したかった僕は「アルベルゲの入口に並んで開くのを待とう」と思い、アルベルゲへ行ってみることにした。

 大きな教会をぐるりと回り込みアルベルゲの前に到着すると、そこにはすでに多くの巡礼達が受付待ちの列に並んで待っていた。それを見た瞬間、
「あ、ここに泊まるのは止めよう。」
と思った。僕はとにかく人混みが苦手で、混んでいるのがわかると秒で諦めてしまう。

巡礼をモチーフにした壁画が可愛い。

 今夜の宿を検討し直した結果、Monasterio.Santa Claraへ行ってみることにした。あまり大きくもなさそうだし、騒がしくもなさそうだ。辿り着いたアルベルゲは修道院の中にあり、静かで小ぢんまりした雰囲気はまさに自分好みだった。僕はとにかく小さく静かな所が好きで、静かだとわかると秒で決めてしまう。

Monasterio.Santa Clara。静かな雰囲気のアルベルゲ。

 修道院の入口でシスター達に会い、受付の場所を教えてもらった。オスピタレオは服装から察するに牧師さんのようで、受付後にアルベルゲの中を一通り案内してくれた。加えて村のスーパーやバルの場所も丁寧に教えてくれた。とても親切な人だ。

 指定された寝室は一段ベッドが3つ並べられている小さな部屋で、「ベッドが二段ではなく、部屋が大部屋ではないアルベルゲもあるのだ!」と驚いた。ともかく3つあるベッドの真ん中に荷を下ろすと、スーパーへ買い物に出かけた。

 今日と明日の分の食料に加え、もうハエに悩まされないためのシャンプー、そして今度こそは本物のティッシュなどを買い込み、アルベルゲへ戻った。アルベルゲの中庭でパンとヨーグルトの昼食を食べると、シャワーと洗濯をして、時間もあったので町の散歩に出かけた。

 小さな町をぶらぶら歩くことは楽しいし、いつも気分を落ち着かせてくれる。目的地を持って歩くことと同じぐらい、自由気ままに歩くことも大切なことだと思う。バルでコーヒーブレイクも兼ねてWi-Fiを使わせてもらったり、立ち並ぶ店をウインドウショッピングした後は、明日スムーズに町を出られるように巡礼路を確認することにした。

 無事に町の出口も確認できたので、アルベルゲへ戻ろうと歩き始めた時、道の脇の植え込みの中に小さな看板を見つけた。そこには、
”千里の道も一歩から”
”大地は聞き方を知る人にだけ聞こえる音楽を奏でている”
といったメッセージが書かれていた。どうやらその看板は観光目的に加えて、巡礼礼を励ますために置かれているようだった。

 ”カミーノの声を聞きながら、目の前の一歩に集中せよ”
その小さな看板は、自分が最近気づかされたことを文字にしてくれているようだった。
アルベルゲへ戻ると、先ほど買い込んできたパスタとソースを使って”味、量、お財布”三方良しのポモドーロパスタを作り始めた。三方良し手作りパスタの唯一の欠点は、いつも見た目が不吉なことだ。それはパスタではなく、僕の腕の問題なのだけれど。

 キッチンには夫婦の巡礼がおり、奥さんがコンロの使い方を教えてくれた。そのお礼という訳でもないのだが、多めに買ってきていたヨーグルトを彼女らにおすそ分けした。
「ありがとう!」
そう言われることが、逆にありがたかった。一緒に夕食を食べなくても、何かほんの少しでも分け合えたことで心は満たされた。

 これ以降、何かにつけ食べ物は多めに買うようになった。分け合うことで満たされる。この喜びを知った時から、僕は今までとは違う人間になったような気がする。もしこの世界に分け合う人達の数が増えたなら、人類を悩ませるたくさんの問題は、自ずと解決されていくのかもしれない。そんな気がした。

本日のアルベルゲ

Monasterio de Santa Clara (Carrion de los Condes)

 Tel : (+34) 979 880 837

 12月〜2月は閉鎖 

 ・一泊 5〜7€


 ・ベッド数 29

 ・キッチン

 ・冷蔵庫
 ・リビングルーム
 ・シャワー室 6
 ・暖房器具
 ・お湯
 ・洗濯機/洗濯場/物干し綱
 ・Wi-Fi

 ・自販機
 ・コンセント
 ・薬箱
 ・公衆電話
 ・中庭
 ・駐輪場

本日の支出

    項目 €
コーヒー、ナポリタナ 2.7
食材 6.39
コーヒー 1.4
宿代  7
合計17.09
合計 2,137円(1€=125円)

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