アイルランド留学① 「音楽とケルトの国へ」

ヴィア・フランチジェナ

ホームステイ先でホストファミリーに迎えられる

 昨日は終わっていなくて、今日は始まっている。

 航空券を買い直して、出国手続きを済ませ、無事に搭乗ゲートに着き、夕日を眺めながらチーズマフィンを食べ、ため息をついた僕は、20時15分香港行きの飛行機に乗り仁川を後にした。

 23時頃香港に到着。息つく間もなく、今度はダブリン行きの飛行機に乗り換える。いよいよ現地入りの実感が湧いてきた。飛行機のシートは広々としているし、機内食も美味しくて、サービスも行き届いている。

とても快適なフライトだったが、さすがに13時間座りっぱなしは疲れたし、後半は首が痛くなってきた。

 飛行機がダブリン空港に降り立つ瞬間は、何だか緊張した。日本から遠く離れた、ここアイルランドで、一体何が僕を待ち受けているのか。何に導かれここまで来たのか。

 飛行機から降りる際に、機内に流れていたギターの旋律は、どこか意味深で、何かを知らせるかのように僕の不安な心に響いた。なんだか村上春樹さんの「ノルウェイの森」の出だしみたいだ。

 空港のロビーには、今回僕がお世話になる語学学校のドライバーさんが迎えに来てくれていた。挨拶もそこそこに車に乗り込みホームステイ先へと出発。急な時間変更にも対応してくれて本当に有難い。

 ドライバーは人の良さそうなおじさんで、アイルランドのことを色々と教えてくれた。外の空気は少し冷たいが、昨夜夜通し降ったという雨は上がり、今日は良い天気になりそうだった。

 ハイウェイを南に20分ほど走ると、ホストファミリーの家に到着。お宅は緑に覆われた(文字通り植物が家壁を覆っていた)、二階建ての可愛らしい一軒家だった。

 玄関のベルを鳴らすと、ほっそりしておっとりとしたホストマザー、キアラが出迎えてくれた。朝が早かったせいかまだ眠そうだ。僕が飛行機の乗り継ぎに失敗したせいです。すみません…。

 他の家族はまだ寝ているらしく、家の中は静かだった。ホストファミリーには3人の娘さんがいて、僕が今回使わせてもらう部屋は、彼女らのうちの誰かが以前使っていた部屋らしい。可愛らしい部屋の内装は、まだ幼い少女の部屋という感じで、本人が使っていた当時のままのようだった。

 キアラに家の中の説明をしてもらっていると、どこからともなくホストファーザー、コリンが現れた。大柄でスキンヘッドで目力が強く、一見怖そうだが、ジョークが好きで不思議な雰囲気を持った人だった。コリンは挨拶だけ交わすと、ジムにトレーニングに行った。1時間後ジムから帰ったら、彼が近所を案内してくれるらしい。

 部屋に一人きりになり、背負っていたバックパックを下ろすと、ふーっと息を吐いた。最初の目的地に着いた安堵感と、見知らぬ国の見知らぬ人の家にいるという不安な気持ちが入り混じり、何だ落ち着かなかった。

 しばらくベッドに横になっていると、一階から(僕の部屋は二階だった)コリンの陽気な鼻歌が聞こえてきた(彼は常に鼻歌を歌っていた)。どうやらジムから帰ってきたらしい。僕は結構長い間横になっていたのかも知れない。

彼は僕をキッチンに招くと、コーヒーを淹れてくれた。カップを片手に二人でしばし談笑。

 コーヒーを飲み終えると、コリンの案内で僕らは近所を散歩した。家の周辺はとても静かなところだった。人はまばらで、彼らは散歩やジョギングをしたり、LUASで出かける人達のようだ。そこでLUASについてコリンから説明を受けた。

 LUASとは、ダブリンを走る路面電車のことで、レッドラインとグリーンラインの二本の路線がある。ダブリンの人々にとって日常生活に欠かせない乗り物らしい。学校や街の中心部への移動手段として、僕はこれから毎日LUASに乗らなければならない。

 LUASについて一通り説明を受けた後、今度はLUASを利用するための”リープカード”なるものを購入。要するにSuicaのようなものだ。ついでにカードにユーロをチャージ。横文字だらけだ。

 使い方は、LUASの各駅に設置された機械に、乗る前と降りた後にカードをかざすと、チャージされたユーロで自動的に精算される仕組みらしい。リープカードはダブリン滞在中すごく役立ってくれた。

 最寄りのLUAS駅の近くには大型のショッピングセンターがあり、中にはたくさんのお店が入っていた。「必要なものはここで大体揃うよ!」と、コリンから説明を受ける。ショッピングセンターを少しぶらぶらすると帰宅した。

 僕のホストファミリーは、すでに一人韓国人学生を受け入れていて、帰宅するなり彼を紹介してくれた。彼の名はベン(詳しい理由はわからないが、韓国人の子達は皆それぞれ、本名以外にEnglish Nameを持っていた )。ベンは、僕がこれから通うことになる語学学校の先輩らしい。

 僕らは互いに自己紹介をしつつ、キッチンで一緒に朝食を食べた。ベンと話していると、彼が思いやりのある、気遣いのできる人間であることがわかった。シンプルに良い人だった。年も近いし、気兼ねなく話せる。早速友達に恵まれたようだ。

 朝食後、 ベンが通学ルートを案内してくれた。初めての LUASは少し緊張したが、乗り方自体はシンプルだった。

 学校への行き方を教えてもらった後は、二人でダブリンの街中へ足を伸ばした。ベンはダブリンにすっかり慣れているようで、トリニティカレッジやアジアンマーケットに連れて行ってくれたし、アイルランドで使える携帯のSIMカードの購入も手伝ってくれた。本当にベン様様だ。

 街の中心にはスパイア(The Spire)という、見上げるような巨大な塔が建っていた。それは街のシンボルの一つであり、スパイアの下は人々の待ち合わせ場所になっていた。ダブリン滞在中、スパイア周辺はいつも人でごった返していた。

スパイア。近くで見ると迫力がある

 途中スーパーで日用品を買い込んで帰宅。キッチンでおやつを食べながら二人で色々おしゃべりをした。

 僕らのホームステイ先のキッチンには常に何かしらの食べ物が置かれており、夕食以外は各自で自由に食べていいことになっていた。ベンとお互いのことや、ダブリンのことについて話すのはとても楽しかった。

 部屋に戻りベッドに横たわると、窓から差し込む夕日が温かった。その温かさに包まれながら、気づけば夕食までぐっすりと眠っていた。

 夕食は、コリンとケヴィン(キアラのお父さん)と一緒に食べた。ケヴィンは高齢のようだが、優しく気品のある紳士、という印象だった。

 本当に目まぐるしい1日だった。夕食を食べ終え、部屋に戻ると、慣れないベッドで眠りについた。

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