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【サンティアゴ巡礼】- ルピュイの道 – 1日目-2

サンティアゴ巡礼記

12月18日 Paris → Le Puy-en-Velay

 フランスに来てからというもの、どこに行っても香水の匂いがする。皆香りには気をつけているのだろうか。香水の香りを嗅ぐと自分が外国に来たという実感が湧く。

 物価は日本と比べると高い。円安の影響をしっかりと感じる。価格が動く、自分が普段暮らしている日本の日常生活の中での物価との誤差が生じる、それは異国を旅している実感と結びついていて、いつもささやかな高揚感を感じさせてくれる。こうしてカフェで働いている人々を眺めていると、仕事があって働けるっていいことだな、と感じた。もちろん嫌な仕事を長時間嫌々するのは別だけれど。

 彼らの小気味良い働く音が心地よい。「ボンジュー!」とお客さんを迎える時の笑顔が素敵だ。僕ら客も笑顔で「ボンジュー!」と答える。気持ちの良い挨拶から滑らかなコミュニケーションが生まれ、オーダーもしやすくなるし、提供してくれたものに対して気持ちよく支払いたくなる。なんならチップも置きたくなる(僕はそのカフェに置いてきた)。

 働く人々に感心したのもあるし、今回の旅では序盤から出費がかさんでいるので、色んな意味で「帰ったらガッツリ働くぞ!」という気持ちになれた。

 カフェの店内からガラス一枚向こう側の通りをひっきりなしに行き来するフランス人達を眺めていると、「やっぱりフランス人はお洒落だな~」と感心した。老いも若きもそれぞれ自分の服を着こなしていて、細かいところにまでこだわりを感じた。

 朝地下鉄の駅構内でエスプレッソとクッキーを食べたばかりだったが、今まだお腹が空いていた。やはりどこかにどっかりと腰を下ろしてゆっくり食べなければ満たされないものがあるのだと思う。食べ物そのものはもちろん、どう食事をとるかもきっと大切なことなのだ。

 カフェで素敵な時間を過ごした後、店を出て駅のプラットフォームへと向かった。まだ時間があったので駅構内のトイレに行った。中へ入ろうとすると、入り口に立っていたフランス人に止められた。物言わずお金を要求される、トイレは有料だったのだ。そこで1€支払って中へと通してもらった。これも海外ならではのシステムだ。公衆トイレが無料の日本とは一体何が違うのだろう。

 駅の中ではもう一つ日本とは大きく異なる点があった。それは黒人のゴツいセキュリティのお兄さん達があちこちで警備をしていたり、機関銃を持った兵士達がその辺をうろついていたことだ。いつ何時起こるかわからないテロを警戒してのことだろうか。日本はまだ平和なのだと思う。

 僕が乗るはずの12時52分発の電車がなかなかやってこない。12時40分になってもやってくる気配がないので、さすがにおかしいと思い、近くにいた駅員さんに尋ねた。どうやらプラットフォームが違うらしかった。慌てて別の場所にあるプラットフォームへと走った。この状況はスペインでカミーノを歩き始める時にも経験した気がする。

 何とか間に合って電車に飛び乗った。だが今度は席が見つからない。他の乗客に尋ねながら、笑われながら、助けられながら自分の席にようやく辿り着いた。ホッと一安心。

 走り始めた電車の車窓から流れゆくフランスの景色を眺めた。牧草地が多く、とても長閑な風景だ。途中からは霧により、白くけぶる灰色の景色に変わったりと窓の外のフランスは色々な表情を見せてくれた。赤い屋根の可愛らしい家々、林、主になだらかな丘陵地帯に広がる牧草畑。隣の席に座っていたお兄さんが席を立ってどこかへ行ってしまうと、僕はそんな景色をずっと眺めていた。

 すっきりしない今日の天気も、次第に回復してきて明るくて気持ちの良い景色に変わった。遠くには小さく牛達も見える。ここに至るまではとても不安だった。けれど、目の前に広がる牧歌的なフランスの景色を目にして、ようやく自分の心がワクワクしてくるのを感じた。「ああ、このために自分はここに来たんだ。」そう思えた。僕が求めていた「旅する喜び」を感じられるぐらいに余裕が出てきたのかもしれない。明日からまた歩き出すのが楽しみだ。

 景色は一旦安定したかに思えたが、その後晴れたり曇ったりを繰り返した。天気は僕の心を映し出すように、白くけぶると不安になり、晴れると楽観的になれた。

 TGVの車内はとても静かだ。皆スマホを見たり、パソコンのキーボードをカタカタと叩いたり本を読んだりと、思い思いに過ごしている。皆寝入ってしまう時間もあり、自分も目を閉じていると、異邦者である自分もその場に完全に溶け込んだように感じたりした。僕はフランスに住めるかもしれない。何だか肌感的にそう感じた。

 スペインを旅していた頃は、いつまでも日が沈まない記憶があったが、フランスの太陽は15時を過ぎると急に傾いてきた。スペインを歩いた時は春から夏だったが、僕は今冬のフランスにいる。なので、この日の暮れ方は当然のことなのだと思う。それにもうすぐ冬至もやってくる。ルピュイに着く頃には真っ暗になっていないか心配になってきた。なぜなら、僕には「今夜の宿を見つける」という大きな仕事が待っているからだ。

 僕らの乗るTGVの到着が遅れたせいで、電車の乗り換えの際にはかなり慌てた。ギリギリだった。外では不運にも乗り換えに間に合わなかったおばちゃんもいて、駅員さんに向かって何かをまくし立てていた。さあ、ここからはこの電車一本でルピュイに着く。ゆっくりと走るローカル鉄道の線路は川沿いを走っており、そのゆっくりと流れる川を眺めて過ごした。

 寒さと高揚感を感じた。改めて、今自分がここにいることが信じられなかった。いよいよだ。自分が10年以上も夢に見続けた場所。けれど遠くて届かないものだと写真でばかり眺めていた場所。そこに今、僕は実際に運ばれつつある。

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